相続?なにそれ、おいしいの? 11.佐兵衛の驚愕遺言・・・その四(完璧な遺言)


|ω・) ソーッ 皆さん、ご機嫌よろしゅうに。



『相続?なにそれ、おいしいの?』シリーズの11/52となります。今晩もよろしくお願いします。


↓ 前回の記事です。



横溝正史『犬神家の一族』KADOKAWAより

「うそです! うそです! その遺言状はにせものです!」

「犬神家の財産を、横領するために書いたお芝居の筋書きです。それはまっかなにせものです!」

 古舘弁護士は・・・さとすようにこういった。

「松子奥さま・・・・・・この遺言状は、けっしってにせものでもなければ、また、法的にもすべての条件を具備しているのです。もし、あなたがたが、この遺言状に異議があって、法廷で争おうとなさるならば、それも御勝手ですが、それはおそらくあなたがたの敗訴となっておわるでしょう「犬神家の一族 金田一耕助ファイル 5」 横溝 正史[角川文庫] - KADOKAWA




 あらあら、古舘弁護士さん。言い切っちゃったよ。裁判なんてものは、ちょっとした風向きでガラッと流れが変わることだってあるでしょうに。ほんとに大丈夫・・・・・・??

 さて、そんな心配もどこへやら・・・。自信満々に、ほぼ断言してしまった古舘弁護士ですが、これって本当に法的にすべての条件を具備しているのでしょうか? 何処から見ても非の打ちどころの無い遺言書だったのでしょうか? 佐兵衛の遺言書が”自筆証書遺言”であったとの前提で解説してみたいと思います。まずは自筆証書遺言の見本です。

 自筆証書遺言とは、どんなスタイルで書けばいいのか、これを見れば一目瞭然。非常によくできた見本です。ただし、自筆証書遺言と財産目録はセットで作成し、保管しておく必要があります。さもないと、どこにどんな財産が残されているのか、遺族が困ってしまうケースがあるからです。佐兵衛の遺言書についても別紙として、財産目録が付けられていたと考えるのが自然かと思われます。


 そして、自筆証書遺言ですから、面倒でも以下の文面をすべて、自らの手で肉筆しなければなりません。以下、見本例を上げてみます。 



(例)
                  遺言書
一 別紙一の不動産及び別紙三の預金を妻梅子に遺贈する。
二 別紙二の不動産を二男謙次郎に相続させる。
三 長女奈津子には結婚の際に十分な支度をしたので、相続させるものはない。
四 長男一郎は、金の無心に来ては説教しようとする遺言者に暴言を吐き、梅子にも暴力をふるい全治二週間の怪我をさせたことがある。一郎には相続させない。
五 友人F(大阪市○○区XXX)に500万円を遺贈する。
六 先祖の墓守は謙次郎に頼む。
七 遺言執行者は○○弁護士会の△△弁護士にお願いする。
八 遺言執行者は、別紙三の株式及び国債を現金化することができる。Fへの遺贈500万
  円を除く残金の額は、謙次郎に相続させる。
以上の通り遺言する。
令和2年1月15日                     
                           甲野太郎    印
(出典:『民法7 親族・相続』高橋朋子・床谷文雄・棚村政行著 有斐閣アルマ2022年1月20日第6版 ISBN-978-4-641-22161-1) 



 この見本で別紙と表記されているものが、つまり財産目録というものです。財産目録については、ワープロ書きでもOKです。ただし、「○○銀行の預金」という曖昧な記述では後々の処理に困りますから、「○○銀行XX支店の普通口座1234567番」という風に極力わかりやすく書く必要があるとされています。それから、財産目録の各ページごとに署名・押印が必要です。
 それにしても、非常に良くできた遺言例ですね。さすがは有斐閣。まあ、そこは置いといて、まず、いつ書かれたのか一目瞭然にするために、遺言書の日付は明確に記載すること。「令和2年1月吉日」という曖昧な書き方はNGです。無効とされる判例があります。ただし、「甲野太郎52歳の誕生日にて」などの場合は、日付の特定については問題なしとされています。


 さらに、名前については本名に限らず、個人の特定が可能な名前(芸名・ペンネームとか四股名でもいいんです)であれば良いとされています。「お茶目な老人。大財閥総帥の佐兵衛ちゃん」でもいいってことですか・・・。   


 さらに、とにかく自筆であるならば、紙質は問われないこと。極端なことを言えば・・・
チラシの裏でもいいんです!!



 個人的にはチラシの裏に書かれた遺言、かなり面白いと思いますが、これは遺族にとって、この上ない屈辱になりそうですね。ただ、あまりにも度が過ぎると、偽物であるとか、あらぬ疑いをかけられ、無効を主張されてややこしい事になるかも知れません。


 ちなみに、遺言で可能な意思表示は上の見本の他に・・・、例えばきわめて重い精神上の障害があって、このままでは心配な遺族がいたとします。その人を独り残して旅立つような場面を想定して、その人につける後見人を指名する。
 遺産の分割禁止の期限を設定する。あるいは負担付遺贈。いろんなものがあります。さらに誰々には相続させないと、相続廃除することも可能です。佐兵衛の遺言書もそうなのですが、遺言の内容および自身の財産処分は原則として各々の自由とされています。
 


 では、遺言を受けた側は、それに100%従わなければならないのかと言えば、そうでもありません。遺言する側が自由なら、遺言される側も、従わない自由が認められることもあります。身も蓋もないと言えばそうなるかも知れませんが・・・。
 例えば、相続廃除に納得がいかない当事者は異議を訴えることもできます。上の見本であれば一郎、犬神家の場合であれば松子たちがそれに該当します。もっとも、佐兵衛の遺言書では明白に廃除とは書かれていませんが、暗に松子たちを廃除する意思を表示したものと考えられます。


 さて、古舘さんのおっしゃるとおり、裁判に持ち込んでも松子たちには勝ち目はないのでしょうか。次回につづきます。




ほなまた! 失礼!
|彡. サッ!! ¥