相続?なにそれ、おいしいの? 8.佐兵衛の驚愕遺言・・・その壱
|ω・) ソーッ 皆さん、ご機嫌よろしゅうに。
好評シリーズ「相続?なにそれ、おいしいの?」の8/52となります。よろしくお願いいたします。
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さて、物語のほうは、いよいよ佐兵衛の不吉きわまりない、怪異な遺言が公開されることになります。
横溝正史『犬神家の一族』KADOKAWAより
「ひとつ・・・犬神家の全財産、ならびに全事業の相続権を意味する、犬神家の三種の家宝、斧(よき)、琴、菊はつぎの条件のもとに野々宮珠世に譲られるものとす」・・・
・・・「ひとつ・・・ただし野々宮珠世はその配偶者を、犬神佐兵衛の三人の孫、佐清、佐武、佐智の中より選ばざるべからず。その選択は野々宮珠世の自由なるも、もし、珠世にして、三人のうちの何人とも結婚することを肯(がえん)ぜず、他に配偶者を選ぶ場合は、珠世は斧、琴、菊の相続権を喪失するものとす。・・・」・・・
・・・「ひとつ。・・・・・・野々宮珠世はこの遺言状が公表されたる日より数えて、三か月以内に、佐清、佐武、佐智の三人のうちより、配偶者を選ばざるべからず。もし、その際、珠世の選びし相手にして、その結婚を拒否する場合には、そのものは犬神家の相続に関する、あらゆる権利を放棄せしものと認む。したがって、三人が三人とも、珠世との結婚を希望せざる場合、あるいは三人が三人とも、死亡せる場合においては、珠世は第二項の義務より解放され、何人と結婚するも自由とす」
「犬神家の一族 金田一耕助ファイル 5」 横溝 正史[角川文庫] - KADOKAWA
・・・さて、昔風のずいぶんと硬い文体(いわゆる文語調)で、ちょっと難解だったかもしれません。「肯ぜず」とか、いささか漢文調で、読みにくいと思われる方もいらっしゃるでしょう。でも、口語体で書かれるよりも、その響きによって、かなりの重苦しさを演出されることになります。ここまでの遺言の中身を簡単にまとめるとこんな感じになります。
1 全財産を条件付きで珠世に遺贈する。
2 その条件は、遺言公開三か月以内に左清・左武・左智のいずれか一人を配偶者にする旨意思表示をすること。さもなくば、珠世に与えられた遺贈の受遺権は消滅すること。
3 三人の孫のうち、珠世との結婚を拒んだものは、財産承継から排除される。珠世を女王様と見立てて、三人の孫を逆タマ狙いの状況に追い込む。なかなかイキな計らいですね。
4 珠世が、左清・左武・左智全員からフラれた場合または、左清・左武・左智がみんな死亡すれば、他の誰と結婚しても良く、遺贈の受贈も出来る。
佐兵衛は珠世にとって極めて有利な条件を提示しています。なぜこんなに珠世にこだわるのか? 実は珠世の祖父である、野々宮大弐が佐兵衛にとっての大恩人だったのです。親のいない浮浪児だった佐兵衛は、野垂れ死に寸前のところで那須神社の神職・大弐に助けられ、養育されました。
佐兵衛が成長し、製糸工場で修行を積んで、自ら犬神製糸という会社を設立する際に出資してくれたのも大弐でした。
おまけに、若き日の佐兵衛はかなりの美少年だったらしく、大弐の男色(巷で言うところのBLです。まさにパタリロの世界・・・)の相手にもなったようです。おかげで大弐の妻・晴世がヘソをまげて、一時家出することもあったそうです。晴世も佐兵衛をかなり可愛がっていたようですから、嫉妬したのでしょう。
それにしても条件の4です。これは・・・・・・かなり不吉な条件を付けています。つまり、三人の孫を全員殺してしまえば、すべてが珠世の思惑どおりとなります。更に、珠世は自分自身には関係ない話だと思いこみながら、ただ同席していたに過ぎなかったにも拘わらず、そこでいきなり自分の名前が出てきました。
当時の相続の常識であれば、家督は直系卑属の男子、それも最年長の佐清が第一の候補となって継ぐことになるのが普通でした。佐清が戦死でもしていれば、年齢順に佐武・佐智へと優先順位が回っていくのが一般的でした。
犬神家の家長、あるいは戸主と呼ばれることになる家督相続人。その候補者(三人の孫)、その中でも筆頭候補の犬神佐清。それをさしおいて、自分の名前が一番に出てくるなんて、当時の常識から言えば正気の沙汰とは思えません。まさに珠世にとっては寝耳に水だったでしょう。
当時、当たり前とされていた家督相続の制度から考えたら、佐兵衛の直系卑属・しかも男子が相続するのだろうと、おそらく珠世も、頭からそう決めつけていたことでしょう。ですから、当時の遺言としては、非常に異彩を放つものであったのは間違いありません。この奇妙な遺言の噂は、犬神家のお膝元である那須という町で、大いに話題になるでしょうし、全国規模で取り上げられることにもなるでしょう。
創業家の内紛という、どこぞの名門家具メーカーであったような注目を集めるであろうことは容易に想像できます。全国規模の犬神財閥が三井・住友・三菱と肩を並べるような一大財閥であったと仮定するなら、犬神関連の株式銘柄も乱高下を繰り返すことにもなりそうです。さらには、仕手筋まで介入してきて、日本の株式市場は大混乱に?
そう考えると、ある一家の内輪揉めでは済まないような事態にもなりかねません。その影響力たるや、微々たるもので済むはずがありません。 そして、まだまだ、佐兵衛の奇怪かつ不吉きわまりない驚愕遺言は続きます・・・。本日はこのへんで。
ほなまた! 失礼!
|彡. サッ!!