相続?なにそれ、おいしいの? 35.犬神家の相続廃除・・・その伍(相続的協同関係の破壊法理③実子の相続廃除後編)

|ω・) ソーッ・・・ 皆さん、ご機嫌よろしゅうに



 本日は前回(東京高裁平成4年12月11日決定)の判例について、その後半部分を見ていきたいと思います。念のため、前記事であげた前半部分も載せておきますので、思い出しながら読んで頂けたらと思います。



(参考:前回記事)


判例③前半 (東京高裁平成4年12月11日決定)
 少女Aは小学生時代から盗みと家出など問題行動を起こし万引きなども行った。中学生になってからは問題行動が日常化したため、しつけの目的でスイスの寄宿学校に留学させられるも、そこでも規則違反・万引きなどの問題行動を起こして帰国。高校生になってからも少年院送致と、非行を重ね続けた。

 そして18歳を超えてからは、スナック・キャバレーに勤め、犯罪歴のある反社会勢力の男Bと同棲を開始した。さらに両親Xらの反対を押し切ってその男Bと結婚した。
 これによりXらは、「重大な侮辱」または「著しい非行」にあたるとしてAの相続廃除を申し立てるも、原審ではXらの家庭環境も考慮して廃除事由を認めず却下。


 そして問題となる民法892条の条文。結局これをめぐっての争いならびに東京高裁決定の根拠となりました。重大な要素です。



民法892条:遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人になるべき者をいう。以下同じ)が、被相続人に虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。



 まとめると、「反社の男を伴侶に選ぶ行為」は憲法24条1項にあるとおり、「婚姻は両性の合意のみにおいて成立」とされています。したがって、相手が反社であろうがなかろうが、そんなことは父母への「侮辱」や「著しい非行」に当たらないことは前回も説明したところです。
 ところがです。このあとの娘の行動が、親の逆転勝訴につながっていくことになります。では、判例の後半部分をどうぞ・・・



判例③後半 (東京高裁平成4年12月11日決定)
 これを不服としたXらは抗告。そして子女Aは原審結果をいいことに、結婚式の招待状を反社の男Bとその父親、さらに、こともあろうに実父Xの連名で作って知人らに送付した。
 これらの行為に対し東京高裁は、あたかもX家が反社会勢力とつながっているかのような印象を、積極的に親戚・知人らに植え付けたことについて、名誉毀損および重大な侮辱と認めた。
 そして修復不可能なまでに破壊された親子関係。さらに、Xらの受けた精神的・物質的な損害を重視。それに加えて親Xらが、もはや子女Aを許す意思はないことから、原審判に892条の解釈適用を誤ったという違法性があるものとし、相当程度の「相続的協同関係の破壊」があると認め、子女Aの相続廃除を決定した。


 つまり、結婚式も小規模につつましく挙行する分には良いが、もともと親Xらが結婚に猛反対であったという意思を汲み取ることもなく、気を遣うこともなく。男Bの父親(その地域でも名前を知られた反社会的勢力の親分もしくは大幹部クラスだったのでしょう)の名前と連名で、勝手に披露宴の招待状をバラまいて、「X家=反社」のような印象付けを積極的にしてしまった。


 このことによって、Aが親への「名誉を毀損」、ならびに「重大な侮辱行為」をはたらいたと東京高裁は認定したということです。さらに親Xは「もう絶対に許さん!」と心に決めてしまった以上、昔で言う「勘当」と同様な状態にあると認めました。
 さらには、しつけのためにスイスまで勉強に行かせるなどの経済的負担。少年院送致など、親に与えた精神的ダメージも考慮しています。


 これでAと親Xらの間の「世代間の信頼関係」は崩壊もはや「相続的協同関係」は完全に破壊されたと認定したうえでA勝訴となった原審を破棄し、Aの相続廃除を決定したということになります。



 親族・相続法でもやっていない限り、あまり目にする機会もないであろう、マイナーな判例でもあり、その「決定」には賛否両論わかれそうなところもありますが、これがひとつ「実子の相続廃除すなわち遺留分剝奪」の成立したケースとして、現在でも判断材料の一助、参考にされている事情もあるようです。


 そして、(相続廃除=遺留分剝奪)が成立した後ですが、場合によっては廃除されたはずの推定相続人がこっそりと裏で恩恵の一部を受けるという、抜け道あるいは裏技的な規定も、実は残されています。このことについて、次回はわかりやすく関係図を使って解説したいと思います。



まだまだ続きますよ! それではまた。



ほなまた! 失礼!
|彡. サッ!! 



参考文献
青竹美佳・金子敬明・幡野弘樹著『民法⑤親族・相続判例30』(有斐閣2017年)
ISBN:  9784641137844
判例③要約引用