相続?なにそれ、おいしいの? 37.犬神家の未成年後見 その壱(二種類の注意義務の一つ目・善管注意義務)
|ω・) ソーッ・・・ 皆さん、ご機嫌よろしゅうに。
今回のシリーズは正確に言うと「相続法」ではなく「親族法」のお話となります。どんな話かと言うと「未成年後見」の話です。前回の記事でちょろっと「善管注意義務」という言葉が出てきましたので、それの続きと言う意味合いもあります。
久しぶりに出てきましたが、犬神家の関係図。小説では、野垂れ死に寸前だった佐兵衛を救い養育してくれた、大恩人の神職・野々宮大弐のお孫さんである珠世が早くして身寄りを亡くしました。
この珠世を、佐兵衛が恩返しとして犬神家に引き取り養育し、全財産を与えようという旨の遺言を遺したのは以前にも触れたとおりです。
図で分かる通り、珠世は野々宮姓そのままですから、佐兵衛とは養子縁組をしていないものと推測されます。これは以前の回でも触れましたね。さらに特別養子だと、法的要件が厳しくて、おそらく佐兵衛は無理だろうという検証もしました。
参考過去記事
では、佐兵衛と珠世の法的関係はどんなものであったか? 小説ではそこまでの言及はありませんが、おそらく佐兵衛は珠世の「未成年後見人(民法838条1号)」ではなかったかと考えられます。親などといった親権者が存在しない所謂「孤児」のため、その身上監護について親権者同様の権利義務を受け持つのが「未成年後見人」です。
では、誰を未成年後見人に選任するかですが、まずは最後の親権者(このケースでは祝子)の遺言で指名する方法。そして、孤児となった未成年者本人または親族その他の利害関係者(児童相談所長も含む)による「未成年後見開始請求」を受け、様々な要素を検討し審査してから家庭裁判所が選任する方法があります。
未成年後見人ですが、何も「人」でなくても構わないとされています。どういうことかと言うと、例えばこのような問題に取り組む「NPO法人」や「児童福祉施設」と言った「自然人」ではない「法人」も未成年後見人に就任が可能です。
つまり犬神家の場合、佐兵衛が「未成年後見人」に、犬神家の顧問弁護士である古舘さんが「未成年後見監督人」に就任していた可能性があります。
「監督人」は「未成年後見人」が財産の使い込みなどと言った悪いことをしていないか監督する立場であり、請求や家庭裁判所の職権に基づき選任されますが、現実的には弁護士・司法書士といった、専門知識の豊富な先生方が就任することが多いようです。「後見人」と立場が近い後見人の配偶者や、直系血族(ここでは松子たち三姉妹)、兄弟姉妹などは監督人の選任から除外(850条)されます。
かくして、選任された「未成年後見人」は「孤児」の手にした遺産(財産)などを管理する立場につくわけですが、この管理にあたっては「善良なる管理者としての注意義務」略して「善管注意義務」という厳しめの義務が課されます。
民法644条:受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
民法869条:第644条の(受任者の注意義務)及び第830条(第三者が無償で子に与えた財産の管理)の規定は、後見に準用する。
「準用する」というのはここでも同じ規定を適用して、同様の扱いにしましょうというということです。
余談ですが、大富豪の佐兵衛であれば、「成人するまで、珠世の引き継いだ野々宮家の遺産には手を付けず、丸々温存して全部犬神家で見てやる」などという、太っ腹な管理も可能でしょう。しかし、「それならむしろ養子縁組した方が手っ取り早いんじゃね?」という話にもなりそうです。
珠世にしてみれば、養子縁組をしてしまうと「犬神珠世」になってしまう。今は犬神家の厄介になっているが、いつか「野々宮家」を再興させたい。そんな心情で養子縁組を望んでいなかったのかもしれませんね。
そして、話を戻しますが、普通の親子関係には、この「善管注意義務」は課されていません。これはどういうことなのか? 次回の記事で検証してみたいと思います。
ほなまた! 失礼!
|彡. サッ!!