相続?なにそれ、おいしいの? 12.松子たちに勝機はない? 遺留分制度


|ω・) ソーッ 皆さん、ご機嫌よろしゅうに。



好評シリーズ「相続?なにそれ、おいしいの?」
12/52となります。




横溝正史『犬神家の一族』KADOKAWAより
松子奥さま・・・・・・この遺言状は、けっしってにせものでもなければ、また、法的にもすべての条件を具備しているのです。もし、あなたがたが、この遺言状に異議があって、法廷で争おうとなさるならば、それも御勝手ですが、それはおそらくあなたがたの敗訴となっておわるでしょう」・・・・・・・・・「犬神家の一族 金田一耕助ファイル 5」 横溝 正史[角川文庫] - KADOKAWA




 さて、古舘弁護士はこのようにおっしゃってますが、実際のところ、果たして松子たちの敗訴で終わるのかどうか、解説してみたいと思います。まずは↓の関係図を覚えておいてください。




ここで勝手に条件設定
①佐兵衛の遺産が1500億円あって、別に事業の借金を300億円残していた。
②松子・竹子・梅子のみが非嫡出子(婚外子)として認知されている。
③静馬は認知が済んでおらず、佐兵衛の遺言書にも認知の言及はなかった。
④松子・竹子・梅子それぞれの夫(松子の夫はすでに死亡)はただ単に、結婚
して犬神姓に改めただけであって、佐兵衛との養子縁組はされていない。


 まず最初に考えないといけないのは、野々宮珠世は身寄りを亡くした大恩人の孫であり、大弐の恩義に報いるために、佐兵衛が引き取って養育(かなり愛情はこもっていたようです)していただけであって、犬神家の財産の相続については全くの部外者です。よって本来の法定相続分はゼロです。
 ということで、妻のいない佐兵衛の法定相続人になれるのは、松子・竹子・梅子の三姉妹です。(民法886条~890条) つまり、1500億の財産-300憶の負債=1200億円について、それぞれ1/3(400億)ずつ相続することになります。これが普通の法定相続分です。



 結論から言うと、古舘弁護士の発言は、半分当たりで半分外れです。法定相続分、まるまる400億獲得が裁判で出来るかどうかはわかりません。小説のあらすじ紹介で後日触れますが、佐兵衛と三姉妹の関係は相当冷え込んでおり、おそらく松子たちの言い分が100%通るとは思えませんので、その点から言えば”敗訴”ということになりそうです。
 しかし、ここからが問題です。実は"遺留分"というものが存在します。(民法1042条以下) 簡単に言うと、法定相続の最低限度額保障のようなものです。犬神家の例で言えば、子だけでの相続になります。このパターンだと財産の1/2を遺留分として考えますので、具体的な遺留分額は1200億×(1/2)=600億となります。ちなみに、犬神家は該当しませんが、妻も子も孫も不在で、直系尊属(父母・祖父母)しか相続人が居ないパターンでの遺留分は1/3とされています。つまり400億ということですね。


 そして、犬神家の事例では、この600億を三姉妹で分け合うことになりますので、三姉妹がよほど非道な振る舞いをしている場合は別として(民法892条)松子・竹子・梅子とも200億の遺留分(つまり財産の1/6)が認められます。ということは、全財産を佐兵衛の遺言でさらっていった珠世に対して、三姉妹はそれぞれ「最低でも200億もらえるはずだったのに、相続額は0円だった。差額の200億を私に払え」と請求することができます。
 すると、1200億ゲットしたはずの珠世は、200億×3人分=600億を奪還されることになります。これを遺留分侵害額請求権(民法1046条)と言います。珠世にとってはちょっと気の毒な話ではありますが、そのようにして、法定相続人の権利は最低限ある程度までは保護されるべきである・・・そういう法的な配慮がされているというわけです。


 遺留分侵害額請求権を行使された以上、裁判所としてはこの意思表示(遺留分放棄の意思はない)を前提に訴訟を進めることになります。そして、多くの場合は遺留分権を認める判決が出されるため、珠世に一矢報いる観点から言えば、松子たちが勝訴することになります。そんなことは分かってるはずの古舘さんが、その点について教示しなかったのは、弁護士としての職務を全うしていたと言えるかどうか? 少し疑問点は残ります。 
 次に静馬ですが、彼はことごとく認知の機会を逸してしまったため、部外者の扱いになります。たとえ生物学的な父が佐兵衛であっても、珠世同様に法定相続分はゼロになります・・・・・・そんなのあんまりだー(;'∀')



 でも大丈夫、静馬にはまだ起死回生のチャンスが! とっておきの一手が残されています。それは一体・・・? これについては次回解説したいと思います。




おまけ画像:可愛い黒猫2匹がお待ちしております。






ほなまた! 失礼!
|彡. サッ!!