相続?なにそれ、おいしいの? 34.犬神家の相続廃除・・・その四(相続的協同関係の破壊法理②実子の相続廃除前編)

|ω・) ソーッ・・・ 皆さん、ご機嫌よろしゅうに。



 それでは、今日も頑張ってマニアックな世界についてきてくださいね。マイナーかつマニアックな判例のお話であります。
前回の25年にわたる音信不通により養親子関係破綻から相続廃除が認められた話の続きです。


(前回)




 今回は実子の相続廃除が認められた事例の前半部分を解説してみたいと思います。まずはもうすっかりお馴染みとなりました民法892条の条文。ここから行ってみましょう。
今日は犬神家の系図は使いません。


民法892条:遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人になるべき者をいう。以下同じ)が、被相続人に虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。


判例③前半 (東京高裁平成4年12月11日決定)
 少女Aは小学生時代から盗みと家出など問題行動を起こし万引きなども行った。中学生になってからは問題行動が日常化したため、しつけの目的でスイスの寄宿学校に留学させられるも、そこでも規則違反・万引きなどの問題行動を起こして帰国。高校生になってからも少年院送致と、非行を重ね続けた。
 そして18歳を超えてからは、スナック・キャバレーに勤め、犯罪歴のある反社会勢力の男Bと同棲を開始した。さらに両親Xらの反対を押し切ってその男Bと結婚した。
これによりXらは、「重大な侮辱」または「著しい非行」にあたるとしてAの相続廃除を申し立てるも、原審ではXらの家庭環境も考慮して廃除事由を認めず却下。
・・・ここまでが前半部分となります。いかがですか?


 まさに「小っちゃな頃から悪ガキで十五で不良と呼ばれたよ」という少女A。ちょっと子育てに失敗したというか、こじれてしまった家庭なら「特別じゃない、どこにも居るわ、私少女A」 それほど極めて珍しいとも言い切れないんじゃないか? という事例です。
 確かに少女A。とんでもない不良娘ですが、それだけでは相続廃除には当たらないということです。反社の男Bを伴侶に選んだ? そんなもんは理由にならんでしょう。



憲法24条:婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
とあります。ただし、
民法737条1項:未成年の子が婚姻をするには、父母の同意を得なければならない。
ともあります。しかし、これも最近の民法改正で18歳成年とされているので問題なし。ただ、平成4年の時点では成年20歳なので微妙なところですが、父母の同意が無ければ無いで20歳まで待てばいいだけの話。大勢には影響ありません。


 つまり、
「反社の男を伴侶に選んだことが、親に対する重大な侮辱や非行にはならない」ということです。
 考えてみれば当然かも知れません。ましてや、男の方が「これを機に足を洗う」つもりであったならなおさらでしょう。それに加えて、原審では「親の提供した養育環境」も問題にしています。


 ごく簡単に言えば
「貴方達の育て方もなってなかったんじゃないの?」
ってことですね。


 親としてはまるで「オール1の通信簿を突きつけられる」ようで、やるせない気持ちになるでしょうが、これも法律の世界・・・。
 しつけ目的とは言えスイスですからね。公用語はドイツ語・イタリア語・フランス語・レトロマンス語(ラテン語)でしたっけ? 英語もよく通用するはずですが、少女Aが英語すらままならない言語的状態であれば、拷問のような日々でしょう。小学校から英語必修の時代ではありませんから・・・。


 そしてと言うべきか、しかしと言うべきか、親Xはこの原審を不服として抗告することになります。どこまでしつこいんじゃ! ・・・という気もしないではありませんが、ここが家事事件の独特さというやつですね。「事実は小説よりも奇なり」・・・その怨念の深さは『犬神家の一族』を上回っていたかも知れません。


 原審である第一審(おそらく家庭裁判所)での結果が不服である場合、第二審は高等裁判所ということになります。それでも決着が着かなければ最高裁の第三審です。そしてこの判例は、第二審を受け持つ東京高裁が判決を下したわけではありません。そう「決定」です。
 先に種明かししてしまうと、「原審」で勝ったのをいいことに、子女Aはある行動を起こしてしまいます。そのおかげで結果的に親Xは勝訴。すなわち子女Aの相続廃除が認められています。さらには「判決」を下す必要もなくその前の「決定」で決着しています。野球に例えると「2-1」みたいなクロスゲームではなく、「5-1」ぐらいの感覚での勝利と言ってもいいと思います。



いったい子女Aにどんな行動があったのか? 皆さん想像してみて下さい。
それではまた。


参考文献
青竹美佳・金子敬明・幡野弘樹著『民法⑤親族・相続判例30』(有斐閣2017年)
ISBN:  9784641137844
判例③要約引用



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