相続?なにそれ、おいしいの? 20.犬神三姉妹と青沼菊乃・静馬の関係


|ω・) ソーッ・・・ 皆さん、ご機嫌よろしゅうに。




 「相続?なにそれ、おいしいの?」シリーズ20/52回となります。毎度おなじみになりました、この系図をもって、犬神三姉妹(松子・竹子・梅子)と青沼菊乃・静馬の関係をおさらいします。また、犬神三姉妹がいかに青沼母子を虐待していたのかを明かしたいと思います。


 連続殺人のさなか、松子はもう隠してはおれまいと覚悟したのか、衝撃の事実をうちあけます・・・。




横溝正史『犬神家の一族』KADOKAWAより
「・・・犬神佐兵衛といえば、日本でも一流の事業家にかぞえられておりましたのに、それがまだ十八や十九の、それも自分の工場に使っていた、ごく身分の低い女工あがりの娘にうつつを抜かしてしまったのですから、世間に対して、これほど外聞のわるい話はございませんでした」
・・・「菊乃がみごもったにつき、佐兵衛さんはあの女を、正妻としてこの家に入れ、そのかわり私どもをここから追い出してしまうつもりらしいと、評判でございます。ああ、それをきいたときの私の怒り、御想像くださいませ。・・・」
・・・「そこである晩、私どもは三人そろって、伊那の百姓家へ菊乃を襲撃したのでございます」
・・・「私が襟首をつかまえてるまに、梅子さんが赤ん坊をとりあげてしまいました。・・・私はその髪の毛をとって霜の上におしころがすと、そこにあった竹ぼうきをとって、さんざんにぶってやりました。・・・竹子さんが井戸から水をくんできて、その上からぶっかけました。何杯も、何杯も・・・・・・」
・・・「赤ん坊のお尻をむき出しにすると、ピタリ焼け火箸をあてがったのです。赤ん坊が火のついたように泣き出しました」
・・・「さあ、ここに一札お入れ。この子は犬神佐兵衛のタネではありません。情夫の子どもでございますって。」


「犬神家の一族 金田一耕助ファイル 5」横溝正史 [角川文庫] - KADOKAWA






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 菊乃母子に散々暴行をはたらいた挙句、強迫のすえ「静馬は佐兵衛の子ではない」と一筆とったいう行為です。いやはや、陰険きわまりない所業ですが、生まれたころから父・佐兵衛に一片の愛もあたえられず、ただ、佐兵衛の性欲処理の道具としての存在意義しかなかった三人の女性(松子・竹子・梅子の母はそれぞれ別です)が、子を産んでしまったので仕方なく養育されていたに過ぎなかった。
 そんな気の毒な身の上を考えると、たしかに、非道きわまりない振る舞いには違いありませんが、松子・竹子・梅子にもわずかな情状酌量の余地が生じる可能性もあるかもしれません。こんなことを書いていると、なんとも心苦しいのですが、過去の話ではあるが、女性をこのように扱っていた時代背景があったことも否定はできません。
 それでも、佐兵衛から婚外子(非嫡出子)としての認知はしてもらっていますから、まだましなのでは? とも思えますが、世間体をつくろうための工作に過ぎなかった可能性の方が高いでしょう。


 結局、菊乃は恨みとも呪いともつかない台詞を吐いたうえで、静馬とともに行方をくらましてしまいます。身から出た錆とは言え佐兵衛の落胆。そして、三姉妹にたいするさらなる警戒感。「なんと恐ろしい娘たちだ・・・」というふうに、あらためて畏怖の感情を抱いたことでしょう。
 そして、菊乃が無理やり書かされた一筆が、三姉妹から佐兵衛に突き付けられた場面が有ったと考えましょう。おそらくこの時に、佐兵衛の脳裏に松子・竹子・梅子に対する相続廃除(民法892条。簡単に言えば相続からはじき出す行為)という報復にも似た思いがよぎったであろうことは、いまさら想像するにかたくありません。


三姉妹のこれらの振る舞いについては、相続廃除の要件となる
1 被相続人に対する虐待
2 被相続人(佐兵衛)に対する重大な侮辱
3 その他の著しい非行
のうち、2と3に該当する可能性があります。ただ、3の「著しい非行」については、人によって温度差が生じやすいものであるため、その解釈についてよく問題となります。
 例えば、単に親の望んだ職業に就かなかった。家業を継がなかった。あるいは親の気に食わない者を配偶者に選んだことを根に持って「著しい非行」と主張するのはあまりにもナンセンスなので、これは通りません。一般的常識と見比べて廃除に該当するほど酷いものかどうかの判断となります。
 この「相続廃除」については、後日改めて詳しく触れたいと思います。おそらくこの辺が「ヤマ場」になるのでしょうが、かなりの行数を割くことにもなりそうですし、おそらく一回の更新で全てを解説するのは無理かと思います。
 


 しかし、やはり可哀想なのは菊乃・静馬です。このまま泣き寝入りするしか方法はないのでしょうか? 



ほなまた。失礼!
|彡. サッ!!