相続?なにそれ、おいしいの?  21.菊乃は泣き寝入りするしかないのか?(瑕疵ある意思表示)


|ω・) ソーッ・・・ 皆さん、ご機嫌よろしゅうに。



 げに楽しきは戸籍の解読哉・・・まるで探偵(金田一)になったような気分。
「相続?なにそれ、おいしいの?」シリーズの21/52になります。もう半分まで来たか・・・早いなぁ。


 正確に言うと、本日は親族・相続法(家族法)の話ではありません。ただし話の流れの上でスルーするのもどうかということで、刑法と民法(意思表示)からの観点で解説ということになります。
 では、散々脅された上での意思表示を余儀なくされた菊乃について触れたいと思います。



前回の記事はこちら↓




・・・菊乃が静馬を出産したことを知った松子・竹子・梅子は、菊乃の隠れ家を襲撃し、さんざん暴行を加えた挙句、菊乃にこのように強要しました。





横溝正史『犬神家の一族』KADOKAWAより


・・・「さあ、ここに一札お入れ。この子は犬神佐兵衛のタネではありません。情夫の子どもでございますって。」
「犬神家の一族 金田一耕助ファイル 5」横溝正史 [角川文庫] - KADOKAWA




 このあと、菊乃は静馬とともに行方をくらましてしまい、事実上の泣き寝入りをしてしまったわけですが、何とかする方法はなかったのでしょうか? もちろん、警察に届け出て「暴行」および「傷害」ということで、三姉妹の刑事責任を問うことは可能です。
 もっとも、これによって三姉妹にどのような量刑が下されるのかは、今後の裁判次第。このケースだと三人の共同行為となりますから、罪状の分配はどうなるのか? 興味は尽きません。余力があれば、後日三人の正犯・共犯関係についてなど、いろんな解説を試みたいと思います。


 さて、このたびの菊乃のようにさんざんな暴行を受け、生命の危険を感じるほどの畏怖状態におかれ、一筆強要されたというこの状況は、「強迫」と呼ばれています。この「強迫下」で心ならずもやってしまった意思表示「この子は犬神佐兵衛のタネではございません」というものについては、今はあまり使われない用語になっていますが、「瑕疵(かし)ある意思表示」と呼ばれ、民法96条に規定があります。


 結論から言えば、取り消しは可能です。
民法96条1項:詐欺又は強迫による意思表示は取り消すことができる。(・・・さらに)
民法126条:取消権は追認をすることができる時から五年間行使しない時は時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。


 126条については、暴行と強迫による生命の危険を脱した時に追認(あとから認める)権が発生したと考えるのが自然かと思いますので、この時から5年。または暴行の事実があったときから20年が取り消しの期限(消滅時効)ということになります。ここまでが取り消しの話・・・。「この子は犬神佐兵衛のタネではございません」というのを、後でも取り下げが出来るということです。


 そしてここからは、賠償の話・・・。さらに、暴行傷害・強迫による生命的・身体的な損害、精神上の損害(いわゆる慰謝料)の賠償を三姉妹に請求することも可能になります。つまり、損害賠償請求権という一種の債権が発生します。
 菊乃は「みみずばれ」ができるほど竹ぼうきで殴られ、静馬に至っては焼け火箸を尻にあてられ、火傷を負っています。


なので、
民法167条:人の生命又は身体の損害による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一項第二号の規定については、同号中十年間とあるのは二十年間とする。


 つまり、行為の時から数えての期限については、一般の債権(166条)よりも十年延長されるということです。一般の債権(一番わかりやすいのは借金)は10年逃げ回れば時効となります。しかし、借金踏み倒しよりも悪質な、人の生命身体などに対する重いものはもっと長く・・・という意味でさらに時効まで10年積み増しということです。
 もちろん、まだ赤ん坊の静馬が「賠償請求しまちゅ」と、意思表示できるわけではありませんから、この場合、現実的には、母=親権者=法定代理人ということで、菊乃が静馬を代理して、自分の分とを併せて請求ということになりそうです。


以上、気の毒な菊乃がとりうる、法的対抗措置について考えてみました。



ほなまた。失礼!
|彡. サッ!!