相続?なにそれ、おいしいの? 32.犬神家の相続廃除・・・その弐(生前の相続廃除)

|ω・) ソーッ・・・  皆さん、ご機嫌よろしゅうに。




 犬神家の関係図及び、佐兵衛と松子・竹子・梅子の行動や関係など、忘れた方は前回記事でおさらいしてみて下さい。






 非道な振る舞いをした松子・竹子・梅子の三姉妹に対して、恐らく報復のためでしょう。佐兵衛は奇妙な遺言を残して死亡しました。これが連続殺人発生の引き金となったわけですが、そのへんの詳しいところは『犬神家の一族』原作または映画でお楽しみください。映画のおすすめイチ押しは1976年版です。
 ここでふと頭をかすめるのは、佐兵衛が生きているうちに三姉妹を相続から締め出し(相続廃除)していれば、この物語は不成立だったのでは?という思いです。生きているうちに決着をつけていれば、奇妙な遺言で遺族を惑わすこともありません。そこで度々持ち出した民法892条の条文をもう一度・・・。



民法892条:遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人になるべき者をいう。以下同じ)が、被相続人虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。


 相続廃除を家庭裁判所に請求するための三つの要件を整理しておきましょう。
① 被相続人(佐兵衛)に対する虐待。例えば晩年認知症が進み要介護状態となった佐兵衛に対し、殴る蹴るなどの虐待を継続的に行うケースが考えられます。しかしこれも程度の問題はあれど、「9発目まではセーフ。10発殴ればアウト」などという明確な基準はありません。
② 被相続人に対する重大な侮辱。佐兵衛その人の人格を否定するような発言や行動。その他屈辱を与えるような行為を指します。
③ その他著しい非行。曖昧過ぎてよくわからんというのが正直なところですが、民法(明治民法)下で行われた「家督相続」がヒントですね。「ドラ息子」とか「放蕩息子」など、家督を継がせるのに適しない人物を締め出すためによく使われたようです。これがそのまま名残として現行法にも引き継がれたということです。


 これを松子・竹子・梅子に当てはめるとするならば・・・。①は難しいですね。佐兵衛に対する直接攻撃ではありませんので。ただし、「精神的な虐待」と捉える余地はあるかも知れません。
 ② これが一番しっくりくるのではないかと思います。中年期の佐兵衛がこよなく愛し、正妻に据えようとまで思っていた青沼菊乃・静馬母子に暴行を加え、脅迫して「静馬は佐兵衛の子ではない」と一筆書かせた行為は、十分に重大な侮辱に該当しそうです。
 ③ これは曖昧過ぎて適用が難しいところ。菊乃母子に対する暴行・傷害・脅迫が「非行」に当たると言えなくもないところではありますが・・・。放蕩三昧で佐兵衛に必要以上に散財させたなどの事由も見当たりません。


 これら、三つの要素のいずれかに該当すると認められた暁には、松子・竹子・梅子は相続人から締め出し(相続廃除)を食らうことになり、あとは遺言で珠世を相続人に指名するのみ。ただ、正確には珠世は推定相続人ではありませんから、この場合「遺贈」ということになります。しかし、そううまく事が運ぶとは考えにくい所があります。
 前回記事でもあった通り、佐兵衛は三姉妹に微塵も親らしい愛情を抱かず、まるで家畜のような養育環境しか提供していなかった。「相続廃除」請求を受けての家庭裁判所による審判においては、このような事実も勘案しながら進めるということになります。ですので、実際の「相続廃除」請求においては、すべてが請求人の思惑通りには運ばず、廃除が認められないケースの方が多いです。これには民法の考え方である、「信義誠実の原則(信義則)」と「信頼破壊の法理」が親族・相続法にも適用して考えられるという事情があると思われますが、その法理については次回解説したいと思います。
それではまた。




ほなまた! 失礼!
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