相続?なにそれ、おいしいの? 31.犬神家の相続廃除・・・その壱(遺言による廃除)
|ω・) ソーッ・・・ 皆さん、ご機嫌よろしゅうに。
いよいよ相続法の核心部分「相続廃除」のパートとなりました。一般的には「排除」と書きたいところですが、相続法の用語としては「廃除」となります。言葉の意味としてはほぼ同じで、特定の者を相続人から外すという行為のことです。
ここからしばらくは、けっこう学術寄りでマニアックな話になります。かなり退屈な話になるかも知れませんが宜しくお付き合い頂ければ幸いです。実は卒論で扱ったテーマでもあるので、書く方としてはかなり楽しんで書いてる部分もあります。
まず、犬神三姉妹の行動について。何度か触れましたが、松子・竹子・梅子の三姉妹は、青沼菊乃に男子が出来たことを知り、犬神家の屋敷を下がって別居していた菊乃母子を襲撃し、暴行・傷害をくわえた挙句、脅迫をもって「この子は犬神佐兵衛の子ではないと」いう念書をとりました。
参考↓
恐らくそれを受けての三姉妹への報復だったのでしょう。佐兵衛は次のような遺言を遺してこの世を去りました。
「ひとつ・・・犬神家の全財産、ならびに全事業の相続権を意味する、犬神家の三種の家宝、斧(よき)、琴、菊はつぎの条件のもとに野々宮珠世に譲られるものとす」・・・
・・・「ひとつ・・・ただし野々宮珠世はその配偶者を、犬神佐兵衛の三人の孫、佐清、佐武、佐智の中より選ばざるべからず。その選択は野々宮珠世の自由なるも、もし、珠世にして、三人のうちの何人とも結婚することを肯(がえん)ぜず、他に配偶者を選ぶ場合は、珠世は斧、琴、菊の相続権を喪失するものとす。・・・」・・・
・・・「ひとつ。・・・・・・野々宮珠世はこの遺言状が公表されたる日より数えて、三か月以内に、佐清、佐武、佐智の三人のうちより、配偶者を選ばざるべからず。もし、その際、珠世の選びし相手にして、その結婚を拒否する場合には、そのものは犬神家の相続に関する、あらゆる権利を放棄せしものと認む。したがって、三人が三人とも、珠世との結婚を希望せざる場合、あるいは三人が三人とも、死亡せる場合においては、珠世は第二項の義務より解放され、何人と結婚するも自由とす」「犬神家の一族 金田一耕助ファイル 5」 横溝 正史[角川文庫] - KADOKAWA
つまり遺言によって、本来の法定相続人(推定相続人とも言います)である三人の婚外子、松子・竹子・梅子を見事にスルーし、暗にこの三名を相続から除外しています。これが遺言による「相続廃除」というものです。
民法893条:被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。・・・以下略
犬神家のケースにおいては、顧問弁護士として佐兵衛の遺言を預かり、その意向に沿って佐清の復員を待って遺言状を公開・読み上げした古舘さんが執行者となります。古舘弁護士は遅滞なく、松子・竹子・梅子の「相続廃除」を家裁に請求する義務が発生します。
なにゆえ家庭裁判所への請求が必要かと言うと、場合によっては、松子・竹子・梅子の所業に「相続廃除」に該当する事情が有ったかどうか審判する必要があるためです。遺言で特定の者を「廃除」するのは、「立つ鳥跡を濁しまくり」または「イタチの最後っ屁」もっと言えば「振り逃げ」に該当する行為であるからです。
「廃除」される側にとっては「振り逃げ」された日にはたまったものではありません。さすがにこれはアンフェアではなかろうかという考えによるものです。おまけに「相続廃除」が成立すると「遺留分(遺産受け取りの最低保障額)」まで喪失してしまうので一大事です。
そして、この審判にあたっては前の条文である892条がひとつの判断基準となります。前にも紹介しましたがここでもう一度・・・
民法892条:遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人になるべき者をいう。以下同じ)が、被相続人に虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。
この892条の「廃除事由」に該当するかどうかが請求に対する審査の争点ということになります。つまり892条は、被相続人が生きているうちに「相続廃除」を請求するための拠り所になる条文です。この892条の趣旨を、遺言という最後の最後での大どんでん返し。「振り逃げ」の場合にも適用できるようにバージョンアップしたのが893条と理解していいと思います。
生前に堂々と「廃除」をめぐって戦うためのものが892条。そして死に際での「振り逃げ」にまで対応を広げたのが893条。このような役割分担があるということになります。いずれにせよ「相続廃除」が認められるには結構高めのハードルが設定されています。
最後に、一方の佐兵衛が三姉妹をどのように養育していたのかを紹介してから、892条の適用についての次回に記事につなぎたいと思います。
横溝正史『犬神家の一族』KADOKAWAより 「松子の述懐」
・・・「亡父(佐兵衛)にしてみれば、私どもの母たちは、ただおとなしく亡父に身をまかせておりさえすればよいので、子供を生むなどとは、よけいなことだという腹だったらしいのでございます・・・後略」
・・・「亡父が私どもを育てあげたのは、犬や猫の子とちがって、まさか捨てるわけにも、ひねりつぶすわけにもいかなかった、ただそれだけの理由からでございましょう。亡父はいやいやながら私どもを育てたのです。亡父は私どもに対して、微塵も親らしい愛情はもっていなかった・・・後略」
「犬神家の一族 金田一耕助ファイル 5」 横溝 正史[角川文庫] - KADOKAWA
三姉妹の非道な振る舞いはもってのほかですが、対する佐兵衛も三姉妹にはろくな養育環境を提供していなかった。むしろその養育環境は劣悪だった。この二つの事実によって「相続廃除」が審判されることになります。
次回は、892条における「相続廃除」の要件について触れたいと思いますが、本日はこれまで。
ほなまた! 失礼!
|彡. サッ!!