相続?なにそれ、おいしいの? 33.犬神家の相続廃除・・・その参(相続的協同関係の破壊法理)

|ω・) ソーッ・・・  皆さん、ご機嫌よろしゅうに。



 なんだか、専門的な話題は久しぶりのような気がします。今回も特定の人物を相続から外す相続廃除のお話です。




 まず整理しておきたいと思いますが、相続廃除されることにより、その推定相続人は遺留分(いわゆる最低保障額)をも喪失することになります。例えば、配偶者・直系卑属(子や孫)が絡む相続だと、相続財産総額から負債の額を引いた二分の一を計算して遺留分算定の基礎財産とし、その分に法定相続分を掛け合わせます。


 具体的には、佐兵衛の被相続財産が600億円で負債が60億円であった場合、遺留分算定の基礎財産は・・・。
(600-60=540)×1/2=270億円となります。これを法定(推定)相続人である松子・竹子・梅子で分け合うことになりますから、一人当たりの遺留分は270億円×1/3=90億円となります。これに対して、法定相続分は540億÷3で180億ですね。早い話、遺留分は半分と理解してください。


 ところが、相続廃除が成立してしまうと、松子・竹子・梅子はこの90億円という遺留分をも喪失することになります。これを「遺留分剥奪」と言います。その基準となる条文が例の民法892条ということになり、結局、相続廃除と遺留分剝奪のいずれも同じ原理であると言えます。


 ちなみに被相続人の配偶者も直系卑属も居なくて、親など直系尊属しか相続人が居ない場合。例えば、結婚前に若くして子が亡くなってしまった場合などですね。この場合の遺留分算定の基礎財産は三分の一で計算します。つまり早い話、法定相続分の三分の一です。
 さらに、何回か言ってきた気もしますが、兄弟姉妹については傍系つまり、昔風に言うとゆくゆくは分家となるべき存在であるため、法定相続分は有っても遺留分の設定は有りません。ゼロです。


民法892条:遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人になるべき者をいう。以下同じ)が、被相続人に虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。


相続廃除(遺留分剥奪)が成立するための要件ですが・・・もう一度解説します。
① 被相続人に対する虐待。
② 被相続人に対する重大な侮辱。
③ その他著しい非行。
以上のいずれかに該当する必要があります。


 これらを判定するにあたって基準とされる「価値観」というものがあります。これが前にもチラッと出た「相続的協同関係の破壊法理」です。つまり、相続というものは先祖伝来の財産を過去→現在→未来へと繋ぐ世代間の協同作業であり、その協同作業のなかで、相互の信頼関係をブチ壊してしまう行為というのが「相続的協同関係の破壊」となります。ところが、この「相続的協同関係の破壊」ですが、そうそう簡単には裁判所に認めてもらえないという難しさがあります。ひとつ判例を上げてみます。



判例①(東京地裁平成25年2月28日判決)
妻Bが死亡。その12年前には夫Aが暴力と不貞行為により夫婦関係を破壊し別居状態であった。ところが妻Bが亡くなるや、夫Aが遺留分侵害額請求権(侵害された遺留分をよこせと言う権利)を主張。これに対しBの子らは反発し提訴したが、裁判所は夫婦関係破壊前の約30年間にわたる円満な夫婦生活の実績があった事を評価し、夫Aの遺留分権主張は権利濫用にあたらないと判断した。結局、Aの遺留分は剥奪されなかった。


 妻Bや子供たちの感情を考えると、DV夫Aに遺産の一部を持っていかれるとは、あまりにも気の毒な判例です。こんな風に、一般市民の価値観とやや乖離した判例もまかり通っているのが現実です。そうかと思えば、こんな判例もあったりします。



判例②(名古屋地裁昭和51年11月30日判決)
死亡した父Aには養子Bが居た。しかし養子BはA所有の不動産をめぐって感情的にも対立。ついに家を飛び出して25年間音信不通。しかし、Aの死亡を知るや遺留分権を主張し始めた。これに反発した他の遺族と争いになったが、裁判所は25年間の音信不通をもって養親子関係が破綻したと認定すると同時に、「相続的協同関係の破壊」を認め、養子Bの遺留分侵害額請求を権利濫用として、結局Bの遺留分は剥奪された。


 ①と②で正反対の判断が下されていますね。ただ、25年間も養親をほったらかしにしていれば、ある意味当然なのかも? このように実は判例も割れていて、司法の判断も少し迷走気味と言った感じです。複雑な感情や事情が入り乱れる家事事件の裁判ですから、「AならばすなわちB」という明確な線引きがしにくいというのが実情で、ケースバイケースでの判断をするしかない・・・というところもありそうです。


 おまけに、②の判例で「養子」ではなく「実子」であったら同じ判断となったのか? 疑問が残るところではありますが、次回は「実子」が相続廃除された例を紹介して、もう少しだけ突っ込んで考えてみたいと思います。



参考文献
『遺留分制度の機能と基礎原理』 青竹美佳著 法律文化社2021年
判例①②を要約引用。ISBN978-4-589-04127-2



ほなまた! 失礼!
|彡. サッ!!