相続?なにそれ、おいしいの? 19.犬神家の配偶者居住権(その弐)
|ω・) ソーッ 皆さん、ご機嫌よろしゅうに...
今宵は「相続?なにそれ、おいしいの?」シリーズの19回目/52となります。
前回の内容です。↓
それから、関連条文のおさらい↓
民法1028条:被相続人の配偶者は・・・、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた建物・・・の全部について無償で使用及び収益をする権利を取得する・・・。
条件(前回そのまま)
A 犬神本家の家屋建物の評価額は60億円。
B 菊乃の配偶者居住権を金銭評価した結果、20億円相当だった。すなわち家屋建物評価額残余の40億円は所有権とされ、その所有権は静馬・松子・竹子・梅子の共有となる。
この状況で、気を付けておきたい事項について解説したいと思います。今回は私の好きなアカデミックな話ではなく、ちょっと実務寄りの話になりますので、あらかじめお断りしておきます。まずは注意点をひとつずつ・・・
①配偶者居住権は譲渡・売却できない。
当然と言えば当然の話。あくまでも、遺された配偶者が行くところがなくなるのを防止するための保護が目的ですから、他人に譲ったり売却したりするのを認めてしまえば、法の趣旨から見て本末転倒になります。
②配偶者居住権は建物のみで土地は関係なし。
配偶者居住権を得たからと言って、その配偶者・妻のところに、夫のものだった土地の所有権すべてが転がり込んでくるわけではありません。土地の所有権相続分は配偶者を除外した相続人間の共有になります。ちなみに配偶者は敷地利用権なるものを獲得することになります。敷地利用権を引いた残りの額を、配偶者以外の相続人で分け合うことになります。
また、たまにあるのが、土地の所有者が相続に関係のない他人であって、その他人の土地に家を建てて居住する場合。つまり建物は自分のものだけど、土地は他人のものであった場合です。このような場合、土地の使用者について、地上権というものが存在します。
民法265条:地上権者は、他人の土地において、工作物又は竹木を所有するため、その土地を使用する権利を有する。
この地上権が認められるので、あえて土地の問題に触れる意味もないだろうという理屈なのかと思われます。ちなみにこの地上権も相続の対象です。
例えば、恩人・野々宮大弐から無料で土地を提供され、佐兵衛が屋敷を建てていたとしても、犬神家の場合、無料貸主(使用貸借と言います)の大弐が先に死亡しています。この時点では使用貸借権は佐兵衛がキープ。また、月日が流れ、通常なら佐兵衛の死亡と同時に使用貸借は終了しますが、ところが犬神家の場合はそれが相続人に移動することになります。つまり菊乃の居住権が脅かされることは考えにくいのです。
何故かと言うと、大弐の孫である珠世が土地を相続していて、この土地はすでに珠世のものだったと仮定しても、珠世が相続放棄しない限りこの無料の貸主(使用貸借)の地位は珠世にスライドします。犬神家の御厄介になっていた珠世の生い立ちなど諸般の事情から察すると、佐兵衛の死をもって使用貸借を解約することも考えにくく、犬神家に関してはこの際土地のことは考えなくても良いということになるでしょう。使用貸借における貸主死亡の際、どうなるのかは、民法には明確な規定がありません。基本的には当事者任せというところがあります。
土地や建物と言った不動産以外の一般的な物については、無償借主の死亡によって使用貸借は終了するとされているのですが(民法597条3項)、いかんせん不動産の場合は現に住んでいたりと、生存の基盤にもかかわるため、残された遺族、すなわち相続人のために例外的に扱う判例があります。
なお、大弐死亡→珠世が相続の時点で、珠世が使用貸借を解約を申し入れ、借主の佐兵衛がこれに応じた場合はこの限りではありません。
使用貸借権については、機会があればまた特集したいと思います。
③配偶者居住権と配偶者短期居住権の二種類がある。
遺された配偶者が終生住み続ける居住権と、短期居住権があります。短期居住権のほうは、遺産分割で建物が誰のものになるか確定するまで。あるいは相続開始(佐兵衛の死)から6か月以内という短期的な期間(いずれか遅い方)を設定する、「つなぎ」のようなものと理解すれば良いと思われます。
④無償で使用・収益ってどういうこと?
民法1032条3項:配偶者は居住建物の所有者の承諾を得なければ、居住建物の改築若しくは増築をし、又は第三者に居住建物の使用若しくは収益をさせることができない。
とされています。ちょっとしたリフォームまらまだしも、おおがかりな増改築には、所有者である静馬・松子・竹子・梅子の承諾が必要ということです。また、犬神本家の離れとかを活用して、賃貸収入を得ることも禁じられてはいませんが、この場合にも静馬・松子・竹子・梅子の承諾が必要になります。
⑤対象の建物が被相続人と配偶者以外である第三者との共有であった場合。配偶者居住権は発生しない。(民法1028条1項後段ただし書き・令和3年度行政書士試験に出題の実績あり)
相続開始の時に、犬神本家の建物が佐兵衛と野々宮大弐の共有であった場合などです。例えば大弐の死後、珠世が共有部分を相続していたときなどは、菊乃は配偶者居住権を手にすることが出来ません。
以上になります。次回からは犬神家らしく、ちょっとおどろおどろしいお話になります。それではまた。
ほなまた。失礼!
|彡. サッ!!