相続?なにそれ、おいしいの? 15.遺言と意思能力


|ω・) ソーッ 皆さん、ご機嫌よろしゅうに。



「相続?なにそれ、おいしいの?」シリーズの15/52です。よろしくどうぞ。物語のほうは、いきなり佐兵衛の遺言状について偽物疑惑が持ち上がります・・・。




横溝正史『犬神家の一族』KADOKAWAより

「うそです! うそです! その遺言状はにせものです!」

金田一耕助はハッとしてそのほうを見る。それは佐兵衛の長女松子であった。

「犬神家の財産を、横領するために書いたお芝居の筋書きです。それはまっかなにせものです!」

「犬神家の一族 金田一耕助ファイル 5」 横溝 正史[角川文庫] - KADOKAWA



 遺言の有効性が疑われる場面についてですが、享年81歳の佐兵衛が、現在で言うところの、認知症にかかっていた可能性はなかったのでしょうか? それこそ、例えば「認知症患者が戯れに書いた落書きです!」などと言い切ってしまえるような状態ではなかったのか、少し気になるところですが、まず民法では、
第961条 15歳に達した者は、遺言をすることができる。
 とあります。つまり未成年であっても、15歳の誕生日を迎えていれば良いということですね。これに従うと、佐兵衛の遺言書の有効性は疑う余地がないように見えますね。
 しかし、何を根拠に15歳? 昔は15歳をもって元服という風習がありましたが、それの名残でしょうか?  


 もう少し追求してみましょうか・・・。六法の頁をうんと遡って、
第3条 法律行為の当事者が意思表示をした時に、意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。 
 なるほど、意思能力が鍵となる・・・。つまり、意思能力とは、外部に対して有効に自分の意思を表明できる。そういう能力ということですね。この意思能力がなければ無効。
 そして、遺言に関しては15歳で解禁している・・・。要は遺言では、未成年者であっても意思能力はあると認定される。その基準は15歳に設定されている。やはり、ちょっとは元服の風習を残したような感じがしますね。


 つまり成年(今は18歳とされています)までは、自分で証券口座を開いたりという行為は、親権者(親)の同意がないといけません。そういえば、冬のスキーツアーでも、未成年者用に、親権者の同意書といったフォーマットがあり、同意を得てから予約という流れになっていますね。これらの人はつまり、制限行為能力者と呼ばれます。
 つまり行為は制限されるけど、遺言の場合なら意思能力はあるという、なんとも微妙な立場ではありますが、どうやら義務教育修了を目安にして、意思能力を具備したとみなすようにうかがえます。


 ただし、ここで注意が必要なのは、昔は「禁治産者」という言葉がありましたね? 禁治産者の現代版というか、似たような感じで「成年被後見人」と呼ばれる人々です。
第7条 精神上の障害により、事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等以内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。


 随分と長ったらしい条文でしたが、成年者であっても事理弁識能力(自分の言動によって、どんなことになるかを解る能力。平たく言えばこんな感じでしょうか)とか、認知能力がかなり怪しいと判定されていた場合は、遺言が無効になる可能性がある。ということですね。意思能力を失っていた時点で書かれた自筆証書遺言は無効ということですから、それは遺言書の日付から判断されることになり、日付が後見開始の審判が下ったあとであれば明らかに無効となります。
 また、後見開始の審判が下っていなくても、「事理弁識能力を欠く常況(誤字ではありません。常にそういう状況にあるという意味の用語です)にある」と、医師の診断書が出ていたりしていた場合にも、無効になる余地は出てくることになります。余談ですが、奇跡的に事理弁識能力を回復した期間中に遺言することは可能です。しかしこの場合でも医師2名以上の立ち会いがなければなりません(973条1項)とされています。


 意思無能力とは、重度の認知症患者が、セールスに乗せられてうっかり100万円の壷を買ってしまったよ、という場合でも、無効ですから安心してください。という感じですね。一代で大財閥を育てた佐兵衛ですから、老いたる後も認知能力は元気そのものだったのでしょう。でも病には勝てなかった? そんな感じなのかなと思います。



ほなまた! 失礼!
|彡. サッ!!