相続?なにそれ、おいしいの? 18.犬神家の配偶者居住権(その壱)


|ω・) ソーッ 皆さん、ご機嫌よろしゅうに。



 今宵は「相続?なにそれ、おいしいの?」シリーズ18/52となります。



 犬神家の一族から親族・相続法にアプローチする企画シリーズ。上の関係図を参考に、佐兵衛が愛人・菊乃を正妻に迎え、信州の犬神家本家に居住していたという条件で、配偶者居住権について解説を試みたいと思います。本来の相続ですと、家屋敷と言った固定資産、さらに現預金・有価証券等の流動資産を金銭に換算し、それを相続人間で分配するということになります。
 今回は佐兵衛の遺産総額が120億円。うち犬神本家の建物の評価額が60億円だったと仮定します。(今回土地については考えません)


犬神家の建物:60億
現金類:60億
合計:120億です。


 相続人は配偶者・菊乃と松子・竹子・梅子の婚外子三姉妹(菊乃と養子縁組したものと仮定します)と静馬の5人ということになり、法定相続で分けると、菊乃が住居も合わせた120億全体の1/2である60億(建物の価値30億+現金類30億です)そして残余の60億を松子・竹子・梅子・静馬の4子で分け合い、60÷4、それぞれ15億ずつということになります。これで合計120億になりますね。



 ところで、60億相当の本家の建物についてはというと、菊乃が30億相当。松子・竹子・梅子・静馬がそれぞれ30÷4=7.5億相当ずつの分割された持分権を持つことになります。実際の相続で、犬神本家の建物を30:7.5:7.5:7.5:7.5に5分割してそれぞれに与えるというのはかなり煩雑でもあるし、現実的ではありません。
 さらに、犬神本家の建物を、菊乃が住むために完全に手に入れるとなれば、7.5億×4人分=30億を支払わなければなりません。結局、菊乃の手元に残る現金類は30億-30億=0になってしまいます。
 ここで、思い切って居住権と所有権を分離して取得させようというのが、配偶者居住権のカラクリです。つまり、菊乃に居住権相当額を取得させ、残りを所有権として松子・竹子・梅子・静馬の4子に帰属させるというものです。



民法第1028条:被相続人の配偶者は・・・、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた建物・・・の全部について無償で使用及び収益をする権利を取得する・・・。


 例えば、菊乃の居住権が20億相当だったと仮定すると、菊乃は配偶者居住権相当額20億+現金類40億=60億の相続。松子・竹子・梅子・静馬は4人合計で、建物の所有権として60億-20億(菊乃の居住権)=40億と現金類20億の合計60億を4人で分け合った15億ずつで配分し、結果的に帳尻を合わせるという感じです。


菊乃:居住権20億と現金類40億の計60億
松子・竹子・梅子・静馬:建物所有権40億と現金類20億の計60億
(一人当たり建物所有権10億と現金類5億の計15億)



 ちなみに、居住権の金額についてどのように査定するか? 相続税法上ではややこしい計算式があり、ここでの言及は避けますが、一応の目安となるのは近隣の同規模・同築年数の借家の家賃相場をもとに、それに対して女性の平均寿命から逆算して、菊乃があと何年は生きそうだ・・・この二つの要素を掛け合わせた計算結果です。
月々の家賃相場×推定の余命月数≒配偶者居住権査定額のおおよその目安
これをもとに遺産分割協議を進めるのは有りかと思われます。ただし、いざ相続税計算の話となると、先ほどのややこしい計算式に基づくため、そこの部分で齟齬が生じる可能性はあります。
www.nta.go.jp
参考:そのややこしい計算式について ↑


 そして、菊乃が死亡したあとは、配偶者居住権は消滅します。20億円÷4=5億円ずつが後から加算されることになり、結果的に三姉妹と静馬ともども取り分は15+5=20億となります。(注意:経年劣化による建物の評価額減は考慮していません)


 さらに菊乃が現金類を使い切らずに残した場合は、その残余額も三姉妹と静馬の4子の相続となります。
 三姉妹にとっては、菊乃が生きている間だけ我慢して、犬神本家の建物を無償使用させていれば、あとから取り分が増えるので悪い話ではありません。なお、物語では竹子・梅子はそれぞれ東京・神戸に住んでおり、犬神本家に同居しているのは松子だけになります。


 余談ですが、相続廃除等何らかの事情で、松子に建物の所有権が与えられなかった場合、理論的には、配偶者居住権を拠り所に、松子に対して菊乃が「出ていけ!」と言えるようにも思えますが、居所を失うことになる松子に対しての配慮から、裁判に持ち込まれると、菊乃の退去要求は権利の濫用とされ退けられることが多いようです。
 出て行くにしても、それ相応の賃貸物件とか用意が整うまでは滞在させるべき。また、「出て行け」と言う方も、場合によってはその資金援助もやりなさい・・・という人道的な見地からの判断と言えます。それでは今日はこの辺で。



ほなまた。失礼!
|彡. サッ!!